部下育成に関心のないリーダーのコーチング事例~テーマ:「型から入る」~

 

me:Riseキャリアコーチ

尾上 俊介

目次

1. 企業様向けコーチング導入時の課題感

2. 部下育成に関心のないリーダーが部下育成に目覚めたコーチング事例

3. 大きな気づき~「型から入る」

 

 

1. 企業様向けコーチング導入時の課題感

 

me:Riseでは、企業様に様々な目的でコーチングを導入いただいております。

 

ある企業様で導入いただいた際の課題感は以下の通りでした。

 

(1)社員が中長期的なキャリアや目標を描けず、意欲が低下気味

(2)社員の自ら成長する意欲が希薄で、次世代人材が育っていない

(3)社員が個々に動いており、組織としての成果につながっていない

(4)短期的な成果に追われがちで、部下育成にまで時間を割けない

 

本記事では、「(4)短期的な成果に追われがちで、部下育成にまで時間が割けない」の課題感をお持ちのリーダーに向けたコーチング事例をご紹介します。

 

 

2. 部下育成に関心のないリーダーが部下育成に目覚めたコーチング事例

 

日々のマネジメントの中では、組織の成果発揮と部下育成の両立が求められます。

一方で、短期的な成果に追われがちで、部下を育成する時間まで割けないことも多いのではないでしょうか。

 

ここからは、部下育成に興味のなかったリーダーが、試行錯誤の上、部下育成に目が向くようになり、組織としての成果につなげた事例をご紹介します。

 

***

 

その上司は、金子さん(仮名)。

IT機器販売会社に勤める30代の男性リーダーです。

 

意欲・能力とも高く、長年、営業部門で輝かしい成績をおさめてきました。

リーダーに昇格して3ヶ月。

プレーヤー時代と異なり、部下にも成果を発揮させる必要がありますが、なかなか数字があがっていませんでした。

(※守秘義務の観点から、お名前や内容は変更しております)

 

コーチングセッションで、金子さんにご状況をお聞きすると、このようにお話しされました。

 

「私は、目標の数字を達成することに最もやりがいを感じてきました。困難な目標でも、試行錯誤しながら達成した時の喜びや達成感がたまらないのです。」

 

「一方で、部下のマネジメントには興味が持てません。もちろん、リーダーとして部下に成果を発揮させることが、今の職務であることは認識しているのですが、正直、部下を育てるとか、関心がないんです。自分でも、リーダーとしてどうかと思うのですがね。」

 

コーチングでは、クライアントさん(コーチングを受ける方)に、目指したいゴールを思い描いていただき、それに向けて進んでいただきます。

 

私は、金子さんに、コーチング終了時(この時は5ヶ月後)のゴールを尋ねました。

 

すると金子さんは、

「部下育成に興味はありませんが、部下を育てないと、私の評価も上がりません。

部下の成果を後押しすることで組織目標を達成したいです。」ときっぱり回答。

 

一般的には、そのゴールに向けて、「自身がどうありたいのか」、リーダーとしてありたい姿を思い描いていただくことが多いのですが、金子さんは、目標達成への意欲が高いこと、即行動に移せる強みがあることから、ありたい姿よりも具体的なアクション項目について整理していただきました。

 

私は金子さんに、「今までどんなことを実行してきて、これからどんなことを試したいか」質問してみました。

 

すると金子さんは、

「正直、今までは部下を放置気味だったと思います。もちろん、進捗確認などはしていましたが、『しっかり頼むな』程度です。今後は、部下のモチベーションが上がるような関わり方を試してみたいです。」

とお話されました。

 

さらに詳しく伺っていくと、

「正直、リーダーとしてのあり方とかも、どうでもいいんです。

人間って、行動したもん勝ちだと思うのです。やるかやらないか、本当にシンプルですよね。」と続けられました。

 

私は、「あり方より行動」という言葉に着目し、さらに内省を深めていただきました。

 

(尾上コーチ)

「あり方より行動ですね。では、今後、何を試したいですか?」

 

(金子さん)

「そうですね・・・。今まで、馬鹿にしてやってこなかった、部下を承認してみるとか、モチベーションが上がるようなことを何でも試してみたいです。数字を出すためには、たとえ心がこもっていなくても実践してみたいです」

 

(尾上コーチ)

「心がこもっていなくても?」

 

(金子さん)

「はい。だって、そういうの興味ないんですもん。

でも、結果を出すことは大事なので、ただただやってみたいです」

 

その後、部下との接し方、声掛けなど、どんなことを実施していくかアクション項目を整理いただき、実践いただくことになりました。

 

 

私は、「心がこもっていなくても」という言葉が引っかかりましたが、金子さんの関心が結果と行動に向いている以上、金子さんのあり方とやり方を信じることにしました。

 

 

そして、1ヶ月後のコーチングの日。

意外な進捗があったのです。

 

(金子さん)

「尾上さん、色々試してみたところ、おもしろいことが起きました」

 

(尾上コーチ)

「おもしろいこと?」

 

(金子さん)

「今までリーダー研修などで学んできた部下との接し方を色々試してみたところ、部下がうれしそうにするんですよ。明らかに気分よく働いてくれているように見えるんです。活き活き働いている感じが伝わってくるんです。そんな部下の姿を見ていたら、こちらも嬉しくなってきまして、もっともっと部下を褒めたり労ったりしてみようって思うようになったんです。そしたら、いつの間にか、部下を育てること自体が楽しくなってきました」

 

私は、あまりの大きな変化に驚きつつ、金子さんの興味・関心にフォーカスしながらコーチングを進めていきました。

 

ここまでくると、クライアントさんは自走し出します。

 

私が質問せずとも、金子さんは「今度はどんなことやってみようかな?そうだ、こんなことも試してみようかな」と自問自答し続けました。

 

 

 

3. 大きな気づき~「型から入る」

 

金子さんの取り組みは、私たちに1つの選択肢を示唆してくださいました。

 

一般的には、

「やり方の前にあり方」

「スキルを身に着けるにはマインドセットが大事」

「OSがないとアプリは動かない」

などと言われることが多いですが、「マインドよりもスキルが先」という選択肢です。

 

 

茶道や武道など「道」の世界では、「型から入る」ことが重んじられます。

まずは師匠から教わった型を徹底的に「守る」ところから修業が始まると言われています。

 

ビジネスの場でも、「型から入る」ことで、心は後からついてくることが分かりました。

 

金子さんの言葉が印象的です。

「『効果がある』と言われていることを試すと、やっぱり結果につながりやすいですね。

そして結果が出ると、楽しいですよね」

 


【本記事の執筆者】

 

尾上 俊介 (紹介インタビュー≫

 

サッポロビール、ファミリーマート、リコージャパンにて20年間、人事採用・教育、障がい者雇用に従事。採用から入社後の定着支援まで携わる中で、社員が成果発揮できるようコーチング・カウンセリングを学ぶ。関わった方々が生き生き働く姿が手応えとなり、コーチとして独立。

現在は、会社員・学生のコーチ・カウンセラー、企業研修・大学キャリア講師として活動中。

自身のマイナス経験から築いた「違いや弱みは力になる。どんな自分もどんな仲間も、その人らしく活かす方法」を用いたコー チングを実施している。

 

AICF認定コーチ、国家資格キャリア・コンサルタント、産業カウンセラー、うつ・クライシス専門カウンセラー、心理危機介入カウンセラー、障害者職業生活相談員


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